部会長挨拶 - 公益社団法人 化学工学会 超臨界流体部会

部会長挨拶

超臨界流体部会は、平成13年(2001年)3月1日に設立されました。すなわち、今年2021年度(令和3年度)は、部会設立から20周年という節目の年になります。そのような中、猪股前部会長から部会長を引き継ぎました東北大学の渡邉です。改めて部会員の皆様には、部会活動への積極的なご参画・ご協力を心からお願い申し上げます。

副部会長には、中原光一様(サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社)、内田博久教授(金沢大学)の2名の方々に就いていただきました。部会事務局として、野中利之特任准教授(東北大学)に庶務を、また大田昌樹准教授(東北大学)に会計をご担当いただきます。会員へのイベントやニュースなど、周知案内や、会費やイベントでの集金など、会員各位とのやりとりを事務局が中心となり実施して参りたいと思います。

また、部会独自ならびに学会本部と連携して開催している様々な活動は、4分科会(エネルギー、材料・合成、バイオマス・天然化合物、基礎物性)の各分科会長、副分科会長各位に中心となって取り仕切っていただいております。その献身的なご尽力には改めて感謝申し上げるとともに、引き続きご協力を賜りたく存じます。加えまして、部会運営において、情報発信が重要となりますため、ニュースレター編集委員ならびに部会HP担当委員を設置し、積極的に会員各位とのコミュニケーションを推進して参りたいと思います。さらに、学会本部との連携を図るべく、化学工学編集委員、化学工学TOPICS委員、そして化学工学論文誌編集委員として部会から協力させていただいております。部会にはまた、活動推進や機能向上を念頭に、大型プロジェクト獲得を目指す研究プロジェクト部門、基礎物性部会との綿密な連携を図る部会連携部門、さらに海外の会員をつなぐ海外会員サポート部門が設置されています。これら機能を活用し、超臨界流体技術の学術・人的交流、技術普及を推進していく所存です。ご担当いただく会員各位には、ここに重ねての御礼を申し上げます。

さて、今年度20周年を迎える超臨界流体部会の成り立ちを、前々部会長・古屋先生におまとめいただいた文章として、以下に記載させていただきます。

『日本で超臨界流体が組織的・系統的に研究され始めたのは、1980年代初頭からです。超臨界流体の研究は高圧領域が対象となるため、最初は高圧物性研究者が手がけることが多く、中でも1982年に化学工学協会(現化学工学会)に設置された「新しい状態方程式の開発に関する研究会」(状態方程式研究会)(代表:齋藤正三郎東北大学名誉教授)の会員は、超臨界流体の平衡物性・抽出分離の研究を精力的に行いました。この研究会を母体として1987年に「超臨界流体高度利用研究会」が発足し、1990年には現在の部会の母体となる「超臨界流体高度利用特別研究会」が承認されました。

このような研究活動を足がかりとして、平成4年度~6年度(1992年~1994年)にかけて、文部科学省重点領域研究“超臨界流体の溶媒特性の解明とその高度な工学的利用”(代表:齋藤正三郎東北大学名誉教授)が実施されました。この重点領域研究は、超臨界流体に関する日本で最初の総合研究であり、①溶液構造の解明、②平衡・輸送物性の測定と推算、③分離溶媒としての応用、④反応溶媒として応用、の4つの研究項目で現在につながる大きな研究成果を得ました。当時の特別研究会会員の多くがこの重点領域研究に参加しました。さらに、平成12年度~16年度(2000年~2004年)にかけて、経済産業省・NEDO“超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発(代表:新井邦夫東北大学名誉教授)”が実施されました。この研究プロジェクトは、超臨界流体技術を省エネルギー性に優れた環境調和型高効率化学反応プロセスに応用するための先導的基盤技術開発を行うもので、現在盛んに進められている反応や材料合成プロセスへの応用につながる多くの研究成果を得ました。超臨界流体研究のコアとしての特別研究会・部会があったからこそ、これら大型研究プロジェクトの提案と実施、研究成果の創出が可能になったと考えられ、超臨界流体部会が果たした大きな役割の例と言えると思います。』

このように、超臨界流体部会は、省エネルギーかつ環境調和型技術としての大いなる期待が集まる超臨界流体技術に対し、その科学的側面を明らかにするとともに、それを社会実装可能な技術として具現化したい、と考える研究者らが結集し、結成・発展してきました。この20年間、超臨界流体技術は目覚ましい発展を遂げ、いくつもの技術が国内外で実用化され、化学工学という学問の発展にも大きく貢献してきました。それに対する超臨界流体部会が果たした役割は大変大きかったと思います。

しかし、超臨界流体技術は堅調に、信用たる一般的な技術として認知されるに至ったか、というと必ずしもそうではないように思います。未だに、超臨界技術は高価であり普及技術としての認知度は低く、また超臨界技術に対する可能・不可能の判断基準が曖昧で、時に誤解されることもある特殊技術とみなされていることがあると感じます。

なぜ、そのような状況になったのでしょうか。

私見ですが、それは超臨界流体に対する期待や技術開発の盛り上がりが、いくつかのブームにより作り上げられた結果なのではないか、と考えています。すなわち、石油価格の上昇に対する対抗策として、資源変革の要望を叶える技術として、環境問題の解決策として、そしてグリーン・テクノロジーの希求への答えとして、その時々の社会要請に対応すべく、超臨界流体を扱う研究者・技術者が、それぞれの立場で技術開発を進めてきました。そこには連綿と繋がっている部分もありながら、一部は断絶し、ゼロから(もしかするとマイナスから)の技術開発を余儀なくされることもあったように見受けられます。高圧環境であるが故に、閉鎖系での検討が主となります。その結果、容器内部の流体の挙動を明確に把握できない状況で検討を進めてしまう危険性が潜んでいます。このことは、基礎を理解しないままに技術・研究開発を進めてしまうことにも繋がり、当然の帰結として目的は達成されません。一方で、超臨界や亜臨界といった言葉が、最先端を想起させる響きを持つため、そのことにより万能な技術のように喧伝されることも多々見受けます。このことが裏目に出ると、技術の信頼性の低下を招きます。このように、ブームは期待通りにことが進まない時に、大きな失望を生み出すことがあります。このような、ブームに便乗した安易な技術開発や、ブーム故の期待感の大きさといったことなどの弊害として、技術の信頼性を損なう場面が多少なりとも存在し、それにより研究開発の継承・継続を困難にしたことがあったかもしれない、と思うのです。

脱炭素に代表されるように、循環型社会の確立が不可避となった現在、超臨界技術に対する期待は、これまで以上に高まっていると感じます。時代が追いついて来た分野が多く存在するという実感です。企業でかつて超臨界技術を研究した方々が現役を退かれ、新たな世代が研究開発の中心を担うようになり、新たに超臨界技術に興味を持つ研究者・技術者も増えています。

そうした新世代の期待に応えるかのように、超臨界流体に関連する技術は、1980年代から着実に積み上げられてきました。ICTやAIの汎用化も相俟って、かつて困難であったことが、実現できる素地は整っています。超臨界技術が本来有している、省エネルギーかつ環境調和型技術の本領が、これから社会実装技術として、まさに発揮されようとしています。具体的には、エネルギー生産技術への貢献であり、バイオマス複雑構造をそのまま活用するようなグリーン・マテリアル分野であり、また高機能素材を単離・濃縮するためのスマート溶媒技術としての期待であり、そうした衣食住・医療・エネルギー・廃棄物処理など多岐に渡る分野での、超臨界技術の適用が、様々なスケール・場面において、進められようとしています。

人が地層学的に大変革をもたらしてしまった現世代(いわゆる人新世)に求められる社会資本は、共有の資産を効率よく活用するインフラ開発とその整備です。共有資本としてバイオマスを捉えた時、その利用には、超臨界技術の部分的かつ包括的利用が有用です。地域社会を支えるエネルギー供給インフラとして、超臨界技術が活躍する場面がきっとあるでしょう。加えて、石油由来の化学物質に極力頼らない産業体系を確立するためには、自然溶媒である水と二酸化炭素、加えてエタノールのような持続可能なバイオマス由来溶媒を駆使することも必要です。こうした社会要請に応えるためには、超臨界流体技術の更なる進化と、その普及が不可欠です。

このような、社会が求める技術の研究開発とそれを担う人材育成のためには、ベクトルをあわせた、大きな社会課題の解決を目指す、大型プロジェクトの立案と実行が必要です。1980年代初頭に超臨界流体の研究を始められ、超臨界流体部会を作り上げた先輩方に負けない、明確なビジョン、知的好奇心、行動力、さらには世代を超えたチーム力を醸成し、具体的アクションを呼び起こす必要があります。このような大きな目標に向かって、新たな超臨界流体研究のコアとなる国内外に広がる部会活動を、部会員の皆様と進めていきたいと思います。

令和3–4年度 超臨界流体部会・部会長
渡邉 賢(東北大学)